この記事では、公用文における「おこなう」の正しい送り仮名をご紹介します。
「行う」と「行なう」。
僕の記憶の中では確か「行う」と学校で習った記憶があるんですが、街やネット上では「行なう」という表記も散見されます。
そこで今回は、『内閣告示』と『内閣訓令』と呼ばれる、国からの重要なお知らせである公開資料をもとに、「おこなう」の正しい送り仮名を調べてまとめていきます。
さらに、「行う」と「行なう」問題が巷でちょくちょく話題になる原因も探っていきますよ。
公用文の「行う」「行なう」の正しい送り仮名
ではさっそく、公用文における正しい送り仮名をご紹介します。
1973年6月18日付けで公表された『送り仮名の付け方』(内閣告示第二号)の記載内容をご覧ください。
送り仮名の付け方
一 この「送り仮名の付け方」は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など、一般の社会生活において、「常用漢字表」の音訓によって現代の国語を書き表す場合の送り仮名の付け方のよりどころを示すものである。
送り仮名の付け方 単独の語 1 活用のある語 通則1
許容
次の語は,( )の中に示すように,活用語尾の前の音節から送ることができる。
行う(行なう)
内閣告示とは、国の行政機関の最高位である内閣から、国民に対して発表される意思表示のことです。
つまり、社会的な信頼性が最も高いものとなります。
この資料を基にすれば、公用文における「おこなう」の正しい送り仮名は「行う」で、許容範囲として「行なう」も使うことができます。
さらに、上記の『送り仮名の付け方』に記載されている『常用漢字表』(内閣告示第二号 2010年11月30日告示)の記載内容もあわせてご覧ください。
この表は,法令,公⽤⽂書,新聞,雑誌,放送など,⼀般の社会⽣活におい
て,現代の国語を書き表す場合の漢字使⽤の⽬安を⽰すものである。
音訓 例 おこなう 行う,行い
こちらの常用漢字表では、「行う」「行い」という例のみ記載されています。
この表からもわかるように、あくまでも「おこなう」の正しい送り仮名は「行う」であり、「行なう」は使ってもいいですよという許容の扱いであることがわかります。
そもそもなぜ「行う」「行なう」問題が勃発したのか?
あなたは1分前、こんな疑問を抱えてこの記事にたどり着いたはずです。
ここから、この疑問が生まれた原因をご紹介しますので、ぜひスッキリしてください。
「おこなう」の過去の送り仮名は「行なう」がメインだった
まず、1959年7月11日付けで公表された『送りがなのつけ方』(内閣告示第1号)の記載内容をご覧ください。
送りがなのつけ方
通則
第1 動詞
1 動詞は,活用語尾を送る。
ただし,次の語は,活用語尾の前の音節から送る。
行なう
さらに、この『送りがなのつけ方』には、実際の使い方の例として、用例集も合わせて紹介されています。
文部省 公用文送りがな用例集
1 この用例集は,「送りがなのつけ方」(昭和34年7月11日 内閣告示第1号)に基づいて,文部省における公用文に用いる書き方を示したものである。
2 送りがなを省くことのできるものについては,適宜,その省いた形を右の欄に示してある。
行ない 行い 行なう 行なわれる
この資料でわかるように、1959年の告示では、「行ない」「行なう」「行なわれる」という具合に、「な」から送る形が主軸となり、「行い」という「な」を省いた形は副軸の扱いでした。
学校で使われる教科書はもちろん、行政機関もこの送り仮名の付け方を参考にするため、かつての「おこなう」のメインの送り仮名は「行なう」だったのです。
14年の時を経て主役は「行う」に決まる
次に、先ほどもご紹介した、1973年6月18日付けの『送り仮名の付け方』の記述をもう1度ご覧ください。
許容
次の語は,( )の中に示すように,活用語尾の前の音節から送ることができる。
行う(行なう)
この告示の中では、以前はメインの送り仮名だった「行なう」がサブに回り、代わりに主役に躍り出たのは「行う」です。
1959年から1973年の14年間で、「行なう」と「行う」にどんなせめぎ合いがあったのか、具体的に説明できる文献は見つかりませんでしたが、強いて言うなら、こちらが参考になると思います。
内閣訓令第2号
各行政機関
「送り仮名の付け方」の実施について
さきに,政府は,昭和34年内閣告示第1号をもって「送りがなのつけ方」を告示したが,その後の実施の経験等にかんがみ,これを改定し,本日,内閣告示第2号をもって,新たに「送り仮名の付け方」を告示した。
今後,各行政機関においては,これを送り仮名の付け方のよりどころとするものとする。
なお,昭和34年内閣訓令第1号は,廃止する。1973年6月18日
内閣総理大臣 田中 角榮
訓令とは、上級行政機関から下級行政機関に出される命令のことです。
この訓令によれば、1959年に告示した『送りがなのつけ方』で得た経験を考慮して、新しく「送り仮名の付け方」を告示したということのようですね。
これはあくまでも僕個人の推測に過ぎませんが、「実施」と「経験」という言葉が用いられていることから、「行なう」を主軸とした送り仮名を発表したんだけど、いまひとつ社会には馴染まなかった(慣用化しなかった)ため、代わりに「行う」を主軸にしたという過去があったようです。
「行った」の読み方がわかりづらいという意見も
「行った(いった)」と「行った(おこなった)」は同じ表記ですが、読み方も意味も異なります。
確かに見た目が全く同じ言葉なので、前後の文章のつながり(文脈)を考えなければ、どちらの読み方なのかは判断できませんね。
そこで、控えの「行なう」が登場します。
「いった」は「行った」、「おこなった」は「行なった」と表記すれば区別ができるため、読み方がハッキリしていいのでは、といった意見です。
しかし、複数の音訓を持つ漢字は世の中に溢れています。
少なくとも、小・中学校の義務教育9年間で2000字以上の漢字を習った(はずの)私たちは、普段の生活において、それを無意識的に使い分けて、日本語の文章を理解しています。
ほんの一例ですが、義務教育で習う漢字の中から、1つの表記でふたつ以上の読み方をする語をあげてみましょう。
- 栄える(さかえる・はえる)
- 汚す(よごす・けがす)
- 角(かど・つの)
- 魚の目(うおのめ・さかなのめ)
- 脅かす(おどかす・おびやかす)
- 金(きん・かね)
- 空(そら・から・くう)
- 後(ご・あと)
- 主(おも・ぬし)
- 床(ゆか・とこ)
私たちは義務教育卒業後、高校、大学、そして社会人と、人生の経験値に比例して多くの漢字を覚え、使いこなせるようになります。
アフリカの奥地に住んでいれば、文字を見ない日もあるかもしれません。
しかし、ここは日本で、毎日日本語を見て、聞いて、書いて、話して生活しています。
漢字に複数の読み方があるのは漢字の特性であり、文脈から漢字の正しい読み方を瞬時に判別するのが日本語のスタイルです。
オブラートに包んで表現すれば、「行なう」は「丁寧でわかりやすい送り仮名」ですが、身も蓋もない言い方をすれば「日本語への甘えを感じる送り仮名」でもあります。
少なくとも現状は「行う」が天下を取っているため、「行なう」を用いるときは、よく考えてから使うべきでしょう。
「行う」「行なう」の使い分け方
では、ここから「おこなう」の正しい使い分け方をご紹介します。
先ほどご紹介した『送りがなのつけ方』に記載されている法令・公用文書・新聞・雑誌・放送の文書の作成時には、「行う」を使いましょう。
許容の範囲とはいえ、あくまでも基本の送り仮名は「行う」なので、不要なトラブルを避けるためにも「行なう」の使用は控えたほうが無難です。
送り仮名を迷いがちな言葉一覧
他にも、正しい送り仮名の付け方が曖昧になってしまいがちな言葉はたくさんありますね。
これらは、リンク先で詳しく解説していきたいと思います。
- 取り扱い・取扱い>>>「取り扱い」「取扱い」「取扱」正しいのはどれ?
- 申し込み・申込み>>>「申し込み」「申込み」「申込」を正しく使い分けよう
- 打ち合わせ・打合せ>>>「打ち合わせ」と「打合せ」正しい使い分けを学ぼう
- 見積もり・見積り・見積
- 売り上げ・売上
- 日付け・日付
- 受け付け・受付
- 組み立て・組立
- 乗り換え・乗換
日本語って、本当に奥が深いですね。
正しい日本語の使い方については、ゆる~く読めてしまうこちらをぜひ参考にしてください。
まとめ
- 「おこなう」の正しい送り仮名は「行う」「行なう」どちらも正しい
- 昔は「行なう」が主役だったが、現在は「行う」が主役である
- 法令・公用文書・新聞・雑誌・放送の文書の作成時は「行う」を採用すべし
これで、今後は迷わず文書の作成を行うことができますね。
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