「取り扱い」「取扱い」「取扱」正しいのはどれ?

「取り扱い・取扱い・取扱」正しいのはどれ? 送り仮名のルール
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この記事では、「取り扱い」「取扱い」「取扱」の正しい使い方をご紹介します。

履歴書や見積書、請求書などで、「とりあつかい」という語を使う場面はよくありますよね。

ただ、その際の送り仮名の付け方は、「取り扱い」なのか、それとも「取扱い」なのか、はたまた送り仮名を付けない「取扱」なのか、迷いませんか?

その疑問を解決するのは、『内閣告示』と『内閣訓令』です。

今回は、国からの重要なお知らせであるこれらの公開資料をもとに、「とりあつかい」の正しい「トリセツ」をまとめます。

一般社会における「取り扱い・取扱い・取扱」の正しい使い方

まず最初は、一般社会における「とりあつかい」の正しい使い方をご紹介します。

基本の送り仮名は「取り扱い」

では、日本の行政機関のひとつである内閣法制局の通知、内閣告示第二号(1973年6月18日告示)の『送り仮名の付け方』の前書きをご覧ください。

一  この「送り仮名の付け方」は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など、一般の社会生活において、「常用漢字表」の音訓によって現代の国語を書き表す場合の送り仮名の付け方のよりどころを示すものである。

送り仮名の付け方 前書き

内閣は国の最高機関ですから、内閣告示を簡単に言い換えれば、国から国民に出されたお知らせのことです。

したがって、社会的な信頼性が高いものです。

その告示の『複合の語 通則6(本則)』では、こう記載されています。

複合の語(通則7を適用する語を除く。)の送り仮名は,その複合の語を書き表す漢字の,それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による。

送り仮名の付け方 複合の語 通則6

『それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名』とあるので、「取る」「扱い」と分けた場合の送り仮名を使うということになります。

よって、一般社会における「とりあつかい」の正しい送り仮名は「取り扱い」です。

「取扱い」も「取扱」も許容の使い方

ただし、『送り仮名の付け方 通則6(許容)』には、上記と合わせて次のような記載もされています。

読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる。

(取扱い・取扱)

送り仮名の付け方 複合の語 通則6

つまり、ニュアンス的には、基本の送り仮名は「取り扱い」だけど、「取扱い」または「取扱」というふうに表記しても問題ないですよ、ということですね。

しかし、次の通則7にはこういった記載もありました。

他の語とセットになるときは「取扱」

『送り仮名の付け方 複合の語 通則7』の記載内容です。

複合の語のうち,次のような名詞は,慣用に従って,送り仮名を付けない。

取扱《所》 取扱《注意》

送り仮名の付け方 複合の語 通則7

慣用とは、世間で広く使われることであり、ごく一般的に慣れ親しまれているという意味です。

上述の例の他に代表的なものとして、「取扱説明書」があります。

基本的に「とりあつかいせつめいしょ」の漢字表記は、「取り扱い説明書」や「取扱い説明書」よりも、「取扱説明書」が慣用となっています。

その証拠として、自宅の家電製品の「とりあつかいせつめいしょ」を確認してみました。

  • 三菱の冷蔵庫→取扱説明書
  • ソニーのテレビ→取扱説明書
  • 東芝の炊飯器→取扱説明書
  • アイリスオーヤマの電気ストーブ→取扱説明書
  • タニタの体重計→取扱説明書
  • 任天堂Wii→取扱説明書

現在自宅にあるすべての「とりあつかいせつめいしょ」を確認しましたが、「取扱説明書」と表記されていました。

使い分けが明確に分けられているのは「取扱」だけ

以上の通則6と通則7を踏まえて、総合的な「とりあつかい」の使い方を分析すると、「取り扱い」と「取扱い」の使い分けには明確な区別がなく、複合の語で名詞として慣用となっている場合にのみ、「取扱」と表記するということになります。

公用文における「取り扱い・取扱い・取扱」の正しい使い方

次に、公用文における正しい使い方をご紹介します。

公用文の正しい送り仮名は「取扱い」

行政機関の上級官庁が下級官庁に対して命令する、内閣訓令第一号(2010年11月30日告示)の『常用漢字表(別紙)』では、以下のように記載されています。

公用文における漢字使用等について

複合の語(「送り仮名の付け方」の本文の通則7を適用する 語を除く。)のうち,活用のない語であって読み間違えるおそれのない 語については,「送り仮名の付け方」の本文の通則6の「許容」を適用 して送り仮名を省くものとする。

取扱い

常用漢字表(別紙)

内閣訓令を簡単に言い換えれば、公務員が公用文書を作る際に、間違いや勘違いが起きないように国が指示をする告示のことです。

つまり、内閣告示同様に社会的な信頼性が高いものです。

その告示の中では、「取り扱い」ではなく、「取扱い」と表記するように記載されています。

名詞のときは「取扱い」、動詞のときは「取り扱う」

さらに、仙台市教育局教育人事部教育センターが公開している資料『「用字・用語の表記例」「新訂 公用文の書き表し方の基準(資料集)」』(2017年6月作成)では、公用文における「とりあつかい」の使い方がより具体的に記載されています。

利用に際しては,原則として見出し語の表記に従うことが望ましい。

取扱い

取り扱う 「輸入品を取り扱う」

「用字・用語の表記例」「新訂 公用文の書き表し方の基準(資料集)」

この資料は以下に準拠しているため、やはり社会的な信頼性の高いものです。

・「新訂 公用文の書き表し方の基準(資料集)」 (平成23年6月文化庁)
・「公用文の書き表し方の基準」 (平成13年4月文化庁) ・「常用漢字表」(平成22年11月30日内閣告示) ・「文部省用字用語例」(昭和56年12月文部省) ・「言葉に関する問答集」(文化庁) ・「小・中学校学習指導要領解説」(文部科学省) ・「新表記辞典」新訂三版(第一法規) ・「公用文 用字用語の要点」(新日本法規) ・「最新公用文用字用語例集」(平成22年ぎょうせい) ・「例解辞典」(平成22年 ぎょうせい) ・「表記の統一について(参考)」(平成12年,21年, 23年仙台市教育局教育センター・指導課)

上述の訓令では、「取扱い」以外の表記がありませんでしたが、この資料では、「取扱い」という見出しとは別に、「取り扱う」という動詞の見出しが記載されています。

「取り扱う」の例文を見るとわかるように、「とりあつかい」を動詞として使う場合は「取り扱う」と表記し、「とりあつかい」を名詞として使う場合は「取扱い」と表記するというふうに解釈できます。

「取扱」は慣用化した複合の名詞のときだけ

そして残りの「取扱」の使い道ですが、こちらは文化庁が公開している「文部省 公用文送りがな用例集」の記載内容が参考になります。

この用例集は,「送りがなのつけ方」(昭和34年7月11日 内閣告示第1号)に基づいて,文部省における公用文に用いる書き方を示したものである。

取扱所

No.21 公用文の書き方資料集

一般社会における使い方と同じく、「とりあつかい」+「じょ」というふうに、複合の語がひとつの呼び方として定着している場合(慣用化しているとき)は、送り仮名を付ける必要はありません。

したがって、「取扱所」「取扱説明書」というふうに送り仮名を省いて表記します。

「取り扱い・取扱い・取扱」の使い分け方

では、実際に「とりあつかい」を文章で用いる場合、どうやって使い分ければいいのかをご紹介します。

公文書と私文書の見極め

「とりあつかい」の使い分けはとても簡単です。

作成する文書が、「公文書」なのか「私文書」なのかを判断します。

公文書とは、公務員が職務上において作成する文書です。

したがって、公務員以外の個人が書く文書はすべて私文書です。

さらに、公務員だとしても、職務上での作成が前提となるため、公務員が私的に作成した文書は私文書となります。

私文書は、以下のようなものが代表されます。

  • 履歴書
  • 契約書
  • 請求書
  • 念書
  • 国家試験などの答案
  • 新聞記事
  • 申込書

公用文を書く場合

あなたが公務員で、職務上文書を作成する場合、上述の【公用文における「取り扱い・取扱い・取扱」の正しい使い方】を参考にしてください。

  • 名詞として「とりあつかい」を使う場合は「取扱い」
  • 動詞として「とりあつかう」などを使う場合は「取り扱う」
  • 複合かつ慣用化した名詞として「とりあつかい」を使う場合「取扱」

私文書を書く場合

あなたが個人的に文書を作成する場合は、上述の【一般社会における「取り扱い・取扱い・取扱」の正しい使い方】を参考にしてください(公務員の私文書も含む)。

  • 名詞として「とりあつかい」を使う場合は「取り扱い」または「取扱い」
  • 動詞として「とりあつかう」などを使う場合は「取り扱う」または「取扱う」
  • 複合かつ慣用化した名詞として「とりあつかい」を使う場合「取扱」

少し具体例をあげてみましょう。

例1

  1. 危険な薬品の取り扱いには慣れています→
  2. 危険な薬品の取扱いには慣れています→
  3. 危険な薬品の取扱には慣れています→

例2

  1. 危険な薬品を取り扱っています→
  2. 危険な薬品を取扱っています→

このように、公用文とは違い、法令上は「取り扱い(取り扱う)」「取扱い(取扱う)」のどちらでもOKですが、「取扱」と表記するのは複合の名詞が慣用になっているときだけなので、例1の3番は誤った表記です。

  1. 取扱説明書→
  2. 取扱い説明書→
  3. 取り扱い説明書→

一方、こちらの例は先ほどの例とは逆のパターンです。

「慣用」というものに明確な線引きがないため、実に曖昧な表現ではありますが、各家電メーカーの「とりあつかいせつめいしょ」を慣用とすれば、「取扱説明書」といった具合に送り仮名を付けないのが最も正しい表記となります。

ということで、私文書を書く際の「取り扱い・取扱い・取扱」の正しい使い方はこうなります。

  • 「取り扱い」「取扱い」はどちらでもOK
  • 「取扱」は複合の名詞のときだけ

送り仮名を迷いがちな言葉一覧

他にも、正しい送り仮名の付け方が曖昧になってしまいがちな言葉はたくさんありますね。

これらは、リンク先の記事をご覧ください。

スマホやパソコンの自動変換だと、どちらの送り仮名も表示されるので迷いますよね。

インターネットが普及した現在でも、ネット上で収集できる情報には限りがあります。

ぜひ、こういった書籍の情報も参考に送り仮名を付けてください。

まとめ

公用文書における「とりあつかい」

  • 名詞→取扱い
  • 動詞→取り扱う・取り扱った・取り扱っているなど
  • 複合かつ慣用の名詞→取扱所・取扱説明書など

私文書における「とりあつかい」

  • 名詞・動詞→取り扱い・取扱い
  • 複合かつ慣用の名詞→取扱所・取扱説明書など

この記事を参考に、「とりあつかい」を上手に取り扱ってください。

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