211の国と地域が参加するFIFAワールドカップにおいて、唯一全大会に参加している代表チームはブラジルだけ。
全21回、88年の歴史を持つFIFAワールドカップにおいて、最も多く優勝している代表チームはサッカーブラジル代表。
「サッカーの強い国はどこ?」という質問を投げかければ、真っ先に思い浮かぶ国はブラジル。
これらの事実を鑑みる(かんがみる)だけでも、いかにブラジルが世界のサッカーをけん引してきたのかがわかりますね。
ということで今回は、ブラジルサッカーの特徴を深く掘り下げ、なぜブラジル代表が世界をけん引する存在となったのかをご紹介していきます。
この記事を読むことで、「ブラジル=サッカー強い」というなんとなく抱いていたイメージが明確になり、その強さの理由がよくわかりますよ。
前回のオランダ編はこちらからどうぞ。>>>オランダのサッカースタイル「トータルフットボール」とはなにか。

ワールドカップにおけるブラジル代表の成績
始めに、ブラジルの強さがよくわかるデータとして、FIFAワールドカップにおけるサッカーブラジル代表の成績を振り返ってみましょう。
開催年 | 成績 | 出場国数 |
---|---|---|
1930 | グループリーグ敗退 | 13 |
1934 | 1回戦敗退 | 16 |
1938 | 3位 | 15 |
1950 | 準優勝 | 13 |
1954 | ベスト8 | 16 |
1958 | 優勝 | |
1962 | ||
1966 | グループリーグ敗退 | |
1970 | 優勝 | |
1974 | 4位 | |
1978 | 3位 | |
1982 | 2次リーグ敗退 | 24 |
1986 | ベスト8 | |
1990 | ベスト16 | |
1994 | 優勝 | |
1998 | 準優勝 | 32 |
2002 | 優勝 | |
2006 | ベスト8 | |
2010 | ベスト8 | |
2014 | 4位 | |
2018 | ベスト8 |
冒頭でもお話ししたように、1958年の初優勝からこれまで最多となる5回の優勝を達成し、ベスト4進出回数もドイツ(13回)に次ぐ11回を数えるブラジル代表。
まさにサッカー強豪国にふさわしい成績です。
優勝した日韓大会以降の最高成績は2014年の4位とやや低迷してはいるものの、最高成績がベスト16の日本と比べれば、常にベスト8以上へ顔を出しているブラジルは「サッカーの強い国」以外の何ものでもありません。
では、ここからいよいよ本題「サッカーブラジル代表はなぜ強いのか」という理由をまとめていきましょう。
ブラジルの文化
ブラジルの強さの理由1つめは、「ブラジルの文化」です。
ブラジルの文化と言えばやはり「サンバ」が思いつきますが、それ以外にも独自の文化を持っており、それぞれの文化はブラジルサッカーに強さをもたらしているのです。
では、それらの文化がどう強さと関わるのか、順番にみていきましょう。
サンバの原型はカポエイラだった!
サンバとサッカー、一見するとつながりがなさそうな両者ですが、サンバの原型となった「カポエイラ」という文化の特徴を知れば納得です。
というのも、ブラジルには「カポエイラ」という独自の伝統的な文化があります。
カポエイラとは、足技を中心とした格闘技に楽器や歌による演奏がつけられ、ダンスのような格闘技のような不思議な動きをする伝統芸です。
実はこのカポエイラ、基本ステップがサンバの基本ステップと酷似していることから、ブラジルのサンバはカポエイラのステップが原型となって生み出されたと考えられているのです。
勘のいい方ならすぐおわかりいただけたと思いますが、カポエイラは「足技を中心とした」伝統芸、同じくサッカーも「足技を中心とした」スポーツ。
サッカーにおいて、世界的な名選手の元スウェーデン代表ズラタン・イブラヒモビッチがテコンドー経験者だったというのは有名なエピソードですが、幼い頃から親しむであろう文化が足技中心であれば、その技術がサッカーへ生かされるのは至って自然な流れですよね。
さらに、サンバと言えば華やかな衣装の女性が踊っているイメージが強いですが、なにも女性だけが参加するものではありません。
ロナウジーニョやネイマールがゴールパフォーマンスでよくサンバを披露していましたが、サンバはブラジル国民のDNAに組み込まれているのかもしれませんね。
ジンガの原型もカポエイラだった!
サンバと同じように、カポエイラを起源にして生まれたのがジンガです。
ジンガとは、カポエイラの基本ステップにボールを絡めるようなテクニックのことで、非常に滑らかなボールタッチを可能にします。
サンバはどちらかというと間接的なつながりですが、こちらはより直接的に強さの理由とつながっており、ブラジルサッカーのすべてと言っても過言ではないでしょう。
参考までに、ジンガの基本ステップの動画をご紹介しておきます。
一方、こちらはジンガの原型となったカポエイラの基本ステップです。
こうして見比べてみるとわかりやすいですよね。
カポエイラの方は足を大きく開きますが、基本となるリズムはどちらも同じであることがおわかりいただけると思います。
そしてこのジンガですが、母国ブラジルではスピリット、信念、プライドといったような意味も持ち合わせているため、単なるサッカーのテクニックとしてだけでなく、ブラジルの歴史に深く刻まれているアイデンティティとも言えるのです。
このように、ブラジルのサッカーはカポエイラという文化が基礎となり、派生したサンバやジンガなどによって進化を遂げてきました。
緩急をつけたリズミカルなドリブル、上半身を左右に大きく揺らすフェイント、ボールが足に吸い付いたような跨ぎのコントロール。
手を使うことを極端に制限されているサッカーというスポーツにおいて、ブラジルの文化は選手にとって大きな武器となり、サッカー王国ブラジルを形成してきたのです。
ブラジルのサッカー選手と言えば、例え大柄なディフェンダーでも「ボールタッチが巧み」な選手が多くいますが、その背景にはこのようなブラジルの文化が大きく関わっていたというわけですね。
国民の半数が混血である
ブラジルの強さの理由2つめは、「国民の半数が混血である」ということです。
まさにブラジルという国を構成している国民そのものの特徴ですね。
しかしなぜ混血が強さの理由になるのか、それはこちらの記事で詳しく解説しているのでご覧ください。>>>サッカー強豪国・フランスによる革命は今も起きている

上の記事でおわかりいただけたように、現代サッカーにおけるアフリカンパワーは強大です。
そして、ブラジルという国も、フランス同様に移民大国です。
もともと先住民が住んでいたブラジルでしたが、そこにアジア大陸から黄色人が、ヨーロッパ大陸から白人が、その後にアフリカ大陸からは黒人が移り住み、その結果、様々な人種が入り混ざって繁栄を遂げてきたという移民文化の歴史があったのです。
そのため、現在のブラジル国民は、白人・黒人・混血という様々な人種が融合し形成されています。
人種 | 割合(%) |
---|---|
白人 | 45 |
黒人 | 9 |
混血 | 45 |
その他 | 1 |
IBGE・全国サンプル家計調査・2015
ブラジルの人口は現在2億人を超えていますが、そのうちの45%は混血人種で占められており、さらに混血と黒人を含めた割合となると実に54%、つまり国民の半数以上が「混血+黒人」なのです。
フットボールはもともと白人が生み出したスポーツです。
しかし、直近6大会において最も多く決勝に進んでいるのはフランス代表(6大会中3回決勝進出)であり、先ほどご紹介した記事の通り、フランスの特徴は多人種が融合した代表チームであることです。
そしてなにより、唯一全大会に出場し最も多くの優勝を遂げているのがブラジル代表であり、やはりこちらも移民大国という特性を持っています。
サッカーブラジル代表の強さの理由の2つめは、多人種の融合による身体的な優位性だったというわけですね。
サッカー選手の輸出大国である
ブラジルの強さの理由3つめは、ブラジルは「世界で最もサッカー選手を輸出している国である」ということです。
ブラジルがサッカー王国と呼ばれる所以(ゆえん)でもありますね。
しかしなぜ輸出大国になったのか、輸出大国と強さの理由がどうつながるのかを順にご紹介しましょう。
プロサッカー選手の競争率の高さ
ブラジルが輸出大国となる理由の1つめは、プロサッカー選手の競争率が非常に高いということです。
というのも、ブラジルには国内リーグとして「カンピオナート・ブラジレイロ・セリエA」があります。
サンパウロFCやサントス、フラメンゴなどの名門クラブが参加し、南米のクラブチャンピオンを決める「コパ・リベルタドーレス」でも好成績を収めています。
しかし、ブラジルの総人口は世界第5位の2億768万人、そのうちでサッカーをプレーする競技人口は1320万人と言われています。
ブラジルにおいて、サッカーは国民から最も愛されているスポーツですし、そのフィールドで活躍することはサッカー選手として誇りとなるでしょう。
ただ、そこに至るためには1320万のライバルと競わなればならないため、とても競争率が高くなってしまうのです。
ハングリー精神の強さ
ブラジルが輸出大国となる理由の2つめは、ハングリー精神の強さにあります。
というのも、ブラジルの平均年収は86万円(日本は361万円)です。
そこで貧困層の少年たちはプロサッカー選手になってお金を稼ぎ、両親や兄弟を裕福にしてあげたいというサクセスストーリーを描きます。
実際、ブラジルにはその筋書きを辿った成功例がいくつもあるため、そのハングリー精神はより大きくなります。
王様でおなじみのペレ、ロマーリオ、ロナウド、ロナウジーニョ、ロベルト・カルロス、アドリアーノなど、貧困層出身のブラジル人スタープレイヤーは数え切れないほどおり、貧困層の少年たちの道しるべになってきました。
ブラジルの少年たちが路地でストリートサッカーをするシーンはよくピックアップされますが、彼らはまさにそういったプロセスを経て世界的なプレイヤーにのし上がったわけですね。
実際、ヨーロッパ主要リーグに所属する選手の平均年収を調べてみると、イギリス紙『デイリー・メール』の調査では、イングランド・プレミアリーグが4億1500万円、ドイツ・イタリア・スペインが2億円~となっていて、本国・ブラジル・カンピオナート・ブラジレイロは約1億円となっています。
ですから、より多い出場時間、より高いサラリーを求めて国外へ出るという選択は、ブラジルの経済状況を見れば必然的とも言えるわけですね。
極端な治安の悪さ
ブラジルが輸出大国となる3つめの理由は、極端な治安の悪さです。
これは不名誉で有名な事実ですが、ブラジルの治安の悪さは世界でも有数です。
当時現役だった「悪魔の左足」を持つセレソンのレジェンド「ロベルト・カルロス」が、携帯電話でラジオ生出演中に強盗に遭ったというのは有名なエピソードです…。
では、日本を1とした場合のブラジルの犯罪発生率の比較をご覧ください。
犯罪 | 倍率(倍) |
---|---|
殺人 | 約28 |
強姦 | 約25 |
歩行者強盗 | 約1,500 |
自動車強盗 | 約1,700 |
住宅強盗 | 約120 |
歩行者強盗(ひったくり)、自動車強盗に関しては日本の1000倍以上。
もはや想像がつきません。
もちろんですが、ブラジルの犯罪発生率は他のサッカー強豪国と比べても圧倒的に高い数字となっています。
国外に出た選手は代表を強くする
近年、日本代表の中心が海外組となっているのは周知の事実ですが、その主な理由はサッカー選手としてより成長するためであると考えられます。
実際、ワールドカップなどの国際大会において、スタメンのほとんどは日本国外で活躍している選手で構成されています。
つまり、選手は国外でプレーすることによって成長し、代表チームはその個人の成長によって強さを手に入れるのです。
ですから、輸出大国と強さがつながる理由はこうなりますね。
たくさんのブラジル人選手が国外で活躍することによって、選手として人間として大きく成長し、代表チームに強さをもたらすためである。
まとめ
サッカーブラジル代表がなぜ強いのか、その理由をおさらいします。
- サンバやジンガはカポエイラにルーツを持ち、カポエイラは足技を中心とした伝統的な文化である
- ブラジルは多人種が集まった移民大国であり、身体的な優位性を持っている
- 国外で多くの選手が活躍することによって代表チームが強化される
次回は、南米のパリとも称される国・アルゼンチンです。>>>サッカー強豪国・アルゼンチン代表の本質とはなにか。

