1863年10月26日、ロンドンのバー「フリーメイソンズ・タバーン」で、ひとつのスポーツが誕生しました。
そのスポーツは約150年をかけて進化し、今では全世界200以上の国と地域で広く行なわれるようになったスポーツがあります。
そう、「サッカー=フットボール」です。
150年という長い年月は、世界共通のルールを持ちながらも、世界各国に様々なサッカースタイルを生み出してきました。
そこでこの記事では、サッカー強豪国として常に注目を集める母国イングランド代表のサッカースタイルと、イングランド国内リーグであるプレミアリーグの特徴をご紹介します。
イングランドサッカーを解き明かすキーワードは、「クラシカル」です。
なお、サッカー誕生の歴史についてはこちらをご覧ください。>>>サッカーの歴史・誕生から150年、その起源を10分で振り返る
イングランド代表のワールドカップの成績
では最初に、イングランド代表の過去のワールドカップの成績を振り返ってみましょう。
開催年 | 成績 | 出場国数 |
---|---|---|
1930 | 不参加 | 13 |
1934 | 16 | |
1938 | 15 | |
1950 | グループリーグ敗退 | 13 |
1954 | ベスト8 | 16 |
1958 | グループリーグ敗退 | |
1962 | ベスト8 | |
1966 | 優勝 | |
1970 | ベスト8 | |
1974 | 予選敗退 | |
1978 | ||
1982 | 2次リーグ敗退 | 24 |
1986 | ベスト8 | |
1990 | 4位 | |
1994 | 予選敗退 | |
1998 | ベスト16 | 32 |
2002 | ベスト8 | |
2006 | ベスト8 | |
2010 | ベスト16 | |
2014 | グループリーグ敗退 | |
2018 | 4位 |
好成績を残したのは、2018年ロシア大会と1990年イタリア大会の4位、そして最高成績は1966年、自国イングランドで開催されたワールドカップでの優勝です。
とはいっても、優勝した1966年大会に参加した出場国数は16チーム、現行の32チーム制になってからは、ロシア大会でようやく4位にたどり着いたというイングランド代表。
サッカー強豪国と呼ばれ、毎大会メディアから注目を浴びるイングランドですが、実際の成績は過去15回の出場回数に対してベスト4進出はわずか3回だけにとどまっています。
このように、国際舞台では「いまひとつ」の成績しか残せていない代表ですが、イングランドには世界に誇るプロサッカーリーグがあります。
まずは、サッカーの母国として世界最古の歴史を持つイングランドのプロサッカーリーグの特徴をたっぷりとご紹介していきましょう。
イングランド国内リーグ・プレミアリーグの特徴
ボディコンタクトの激しさ
1888年3月、世界初となるサッカーのリーグ戦「イングリッシュ・フットボールリーグ(EFL)」を創設し、1世紀後の1992年2月20日、放映権料の問題などから、既存のEFLの上位に新たに発足する形で誕生した、イングランドの最上位プロサッカーリーグである「プレミアリーグ」。
その大きな特徴のひとつめは、ボディコンタクトの激しさです。
プレミアリーグでは、他国のリーグに比べてヘディングの競り合いや球際での体の寄せが非常に厳しく、レフェリーのジャッジも深いタックルに対して寛容な印象を持っています。
後ほど詳しくご紹介しますが、この理由はイングランドの人々が「キック&ラッシュ」の戦術を好んでいるためです。
チームの多国籍化
そしてもうひとつの大きな特徴は、ヨーロッパの他国のリーグでも見られるクラブチームの多国籍化です。
どういうことかというと、プレミアリーグには外国籍選手の登録制限が存在しません。
つまり、外国人枠というもの自体がフリーであるため、2017年3月のスペイン紙『マルカ』の発表によると、プレミアリーグ全体の64%は外国人選手で占められており、この割合はヨーロッパのリーグの中で最多となっています。
このため、プレミアリーグの試合ではスタメン11人全員が外国人ということも珍しくありません。
日本では、Jリーグが2019年にようやく外国人枠を5人に増やそうとしている状況なわけですから、スタメン11人全員が外国人というのはいかに多い数字なのかがわかっていただけると思います。
関連記事>>>ヨーロッパ主要リーグとJリーグの外国人枠にあるギャップ
フーリガニズムの払拭
そんな多国籍なプレミアリーグの試合を見ていて感じることは、上の2つ以外にも次のような点があげられます。
- サッカー専用スタジアムの割合が多く、ピッチと観客席が近い
- サポーターの声がよく響くため、スタジアムの一体感が半端ない
- ピッチコンディションが良好なスタジアムが多い
イングランドのサッカーは歴史が古く、日本では野球がそうであるように、サッカーというスポーツが文化として根付いているため、試合を見るサポーターの目も肥えています。
ボールホルダーに対して背後からプレッシャーがかかれば即座に「危ないぞ!」と教えてくれますし、非紳士的行為をしたプレイヤーは終始ブーイングを浴びることになります。
こういった「サッカーをよく知っているサポーター」の作り出すスタジアムの空気感により、テレビを通した映像からでも群を抜いた迫力と見やすさ、そして面白さがあります。
かつてはフーリガン対策のために鉄の柵が設置され、群衆事故が頻発したという黒歴史を持つイングランドサッカー。
しかし現在ではメディア戦略の成功によって、上位のビッククラブのみならず、下位の弱小クラブだとしても多くの利益をあげられるシステムを構築し、スタジアム内の雰囲気は極めてクリーンで爽やかなものとなっています。
そういった関係者の努力が実り、現在のプレミアリーグは視聴者数が全世界で10億人を超えており、全てのスポーツにおいて1番人気のあるプロスポーツリーグと呼ばれるまでに成長しました。
光を浴びるプレミアリーグと闇に潜むイングランド代表
今お話ししたように、多くの外国人スター選手とサッカーを熟知したサポーターによって優美な印象を与えているプレミアリーグですが、イングランド代表にとってはあまりポジティブな要素になり得ていないようです。
プレミアリーグ発足以降のイングランド代表の成績を今一度ご覧いただきましょう。
開催年 | 成績 | 出場国数 |
---|---|---|
1994 | 予選敗退 | 24 |
1998 | ベスト16 | 32 |
2002 | ベスト8 | |
2006 | ベスト8 | |
2010 | ベスト16 | |
2014 | グループリーグ敗退 | |
2018 | 4位 |
ベスト4へ進んだ2018年大会が最高成績で、それ以外は特筆すべき成績を残せていません。
さらに、こちらの情報も合わせてご覧いただきましょう。
2018年のロシアワールドカップ3位決定戦、ベルギー対イングランド戦でのベルギー代表のスターティングメンバーです。
POS. | 選手名 | 所属クラブの国 |
---|---|---|
GK | ティボ・クルトワ | イングランド |
DF | トビー・アルデルヴァイレルト | イングランド |
DF | ヴァンサン・コンパニ | イングランド |
DF | ヤン・フェルトンゲン | イングランド |
MF | アクセル・ヴィツェル | 中国 |
MF | ケビン・デ・ブライネ | イングランド |
MF | トーマス・ムニエ | フランス |
MF | ユーリ・ティーレマンス | フランス |
MF | ナセル・シャドリ | イングランド |
FW | ロメル・ルカク | イングランド |
FW | エデン・アザール | イングランド |
この試合のベルギー代表のスタメン11人のうち、実に8人がイングランドのクラブに所属しています。
イングランド代表は、そのすべてが自国リーグに所属する選手で構成されています。
つまり、ワールドカップの3位決定戦でピッチに立ったスタメン22人のうち、実に18人がイングランド・プレミアリーグ所属の選手だったのです。
ベルギー戦はイングランドで活躍する者同士の対戦となったわけですが、グループリーグでは0-1でベルギーの勝利、この試合でも0-2と完敗に終わってしまったイングランド代表。
自国のリーグに所属する選手が主力になっているベルギー代表に立て続けに敗れるとは、なんとも皮肉なものです。
そして、この対戦をより生々しく表現すれば、プレミアリーグで活躍する自国選手(イングランド代表)が、プレミアリーグで活躍する外国人(ベルギー代表)よりも劣っていたとも言えるわけです。
イングランド代表のサッカースタイル
「スリーライオンズ」の愛称で親しまれているイングランド代表。
「サッカーの歴史・誕生から150年、その起源を10分で振り返る」でご紹介している通り、イングランドはサッカーというスポーツを生み出した国であり、その代表のサッカーの1番の特徴は、サッカーの原点=ボールの奪い合いを彷彿とさせる「フットボールスタイル」です。
現在のイングランド国内でも、大柄な体格を生かしたディフェンスラインからのロングボールやアーリークロスを多用する戦術が好まれ、フィジカルコンタクトに重点を置いたサッカーは「キック&ラッシュ」と呼ばれています。
ディフェンスラインからのロングボール
ディフェンスラインからのロングボールのイメージです。
中盤を経由せずに、最前線の体格のいいフォワードめがけて大きく蹴りだし、ボールを受けたフォワードはトラップ、もしくは味方にヘディングでパスをし、ゴールチャンスを演出します(ポストプレー)。
イングランド代表では、いわゆるトップ下(日本代表でいうと中田英寿、中村俊輔、本田圭祐、香川真司など)を得意とするパサータイプの選手が少ないため、このような中盤のつなぎを省略したロングボールの戦術が浸透しています。
かつてはポール・スコールズ、フランク・ランパード、スティーブン・ジェラードというパサータイプの名選手もいましたが、トップ下というよりもセンターハーフ(トップ下より低い位置)でのプレーを得意としていました。
サイドからのアーリークロス
サイドからのアーリークロスのイメージです。
イングランドを代表する名選手デイビッド・ベッカムが得意としていたプレーですが、サイドハーフやサイドバッグから、これも中盤を飛ばして一気に最前線のフォワードを狙ってクロスをあげます。
サイド攻撃を仕掛ける場合、中央の選手と連携して細かくパスをつなぎ、相手のサイドを深くえぐっていくという選択肢もあるわけですが、イングランド代表ではそういったショートパスの崩しはあまり見られず、ある程度の段階になると最後はクロスを上げます。
「放り込みサッカー」とも呼ばれますが、ディフェンスラインからのロングボール同様、体格のいいフォワードがいないと成立しない戦術なので、小柄な日本代表ではあまり馴染みのない戦術です。
このように、キック(ロングパス)をして、ラッシュ(ヘディングで突撃)をかけるというサッカースタイルを持っていることから、イングランドサッカーの代名詞は「キック&ラッシュ」と呼ばれているのです。
ラグビーのような身体のぶつかり合いを好むイングランドの人々
プレミアリーグのご紹介でも触れましたが、試合を見ているとヘディングの競り合いや激しいタックルなどで歓声のあがるシーンがよく見受けられます。
いわゆるフィジカルコンタクトと呼ばれるものです。
これは、もともと手を使うか使わないかで別々の道を歩むことになった「旧友・ラグビー」の影響を強く受けていると考えられます。
しかし、現代サッカーは戦術が複雑化し、単純なフィジカルコンタクトの勝負だけの世界ではなくなっています。
ペップ・グアルディオラの戦術は、選手間の距離を近くし、ゴールキーパーさえもゲームの組み立てに加わって、ショートパス主体で試合全体をコントロールする「ポゼッションサッカー」です。
ユルゲン・クロップの戦術は、攻守の切り換えを素早く行い、縦に速い展開で相手守備網の隙を突く「ショートカウンター」と「ロングカウンター」が主体です。
そういったクリエイティブさが求められる現代のサッカー文化において、ディフェンスのときはゴール前にバスを2台並べ、オフェンスになると一か八かのクロスで勝負するといった放り込みサッカーを繰り返すだけでは、ワールドカップなどの国際舞台で勝ち上がるのが困難であるというのが実情なのです。
このように、代表こそいまひとつの活躍ですが、それでも栄華を極めるプレミアリーグはイングランドの人々の誇りであり、そこに確かに根付いている文化です。
この映画を見たときに、プレミアリーグの舞台裏、さらには日本人とイングランド人の持つサッカーへの価値観の違いがよくわかりました。
GOAL!STEP1 イングランド・プレミアリーグの誓い(字幕版)
まとめ
最後に、イングランドサッカーの特徴をおさらいします。
- ワールドカップ出場15回でベスト4以上は3回だけ
- 国内リーグでは外国人が活躍
- 国際舞台でもその外国人が活躍
- 代表のサッカースタイルはキック&ラッシュ
各国の代表が集まる華やかなプレミアリーグが存在するがゆえに、自国の選手の活躍の場が奪われ、国際大会でいまひとつ結果を残せなかった「スリーライオンズ」。
ロシア大会で久々にベスト4という好成績を収めたイングランド代表でしたが、その試合内容を振り返るとどうしても大味なイメージを持ちました。
彼らがワールドカップの頂点に再び立つための正しい道は、いまのクラシカルフットボールを突き詰めていくべきなのか、それともモダンフットボールへの方向転換をするべきなのか。
若き獅子たちの、新たな挑戦が始まっています。
次回は、カルチョの国・イタリアへまいりましょう。>>>イタリアサッカーの持つ「1-0の美学」には”必然性”があった